はじめに
よく「なぜ空が青いのか?」を解説している記事を見かけます。
「レイリー散乱で説明できて、波長が短い色ほど散乱されやすいから」という説明がされます。
僕も以前、少しつっこんで解説記事を書きました。
レイリー散乱の次にくる話は大抵
「波長が短いほど散乱されやすいのであれば、なぜ紫色に見えないのか?」という話です。
これは、人の目の感度で説明されます。
ただ、もう少しつっこんで考えてみると、太陽からやってくる光のスペクトルや、水の光学的な性質、生物の視覚まで話が広がっていきます。さらに遡れば、太陽そのものの温度や構造にまで行き着きます。
身近な「空が青い」という現象を突き詰めていったら、思ったより壮大な話になったので記事にしてみます。
人の目の感度
人の目で見える波長(可視光)は、380-780nm程度と言われます。
400-800nm等と言われることもあります。個人差もあるため明確な境界がある訳ではありません。
380nm近辺、780nm近辺の境界付近は人の目の感度が弱く、とても見づらいです。
レイリー散乱は波長が短いほど起こりやすいため、空は380-450nm程度の紫色が一番強く散乱されているはずです。
一方で人の目の感度は可視光境界である紫色に対しては低く、これらがバランスして空は青く見えるのです。
反対に可視光領域の中心付近では目の感度が高くよく見えます。
波長で約555nmの光がもっとも人の目の感度が高く、これは緑色です。
空気中のホコリを可視化するのに、緑色の光を使っている映像を見たことがあると思います。
緑色は人の目の感度がよいため、見やすいため緑色が使われるのです。
なぜ、人の目は555nmで感度が1番高いのでしょうか?
太陽の性質を考えていくと、つながりが見えてきます。
ソーラースペクトル
太陽光は白色に見えますが、実際はいろんな波長の光を含んでいます。
太陽光は各波長がどの程度含まれているかをソーラースペクトルと呼んだりします。
ソーラースペクトルは500nm近辺の光が一番多く含まれています。
日中屋外でモノが見えるのは、太陽光の反射光を見ています。
よく見えた方が生存に有利で、太陽光が一番多く含む500nm近辺の光の感度が高くなったと考えられます。
ただ人の目の感度が一番高い555nmとぴったり一致している訳ではないようで、他の要因もありそうな気がします。
では、太陽光が500nm近辺の光を一番多く含むのはなぜでしょうか?
熱輻射
太陽は殆どが水素で出来ていて、核融合を起こしているため強いエネルギーを発しています。
太陽の表面温度は約6000度あります。
物質はその温度に対応して光(エネルギー)を常に発しています。
例えば、たき火をイメージしてください。直接火に触っている訳ではないのに暖かいです。
これは火が温度に対応した光(エネルギー)を発しており、それを体吸収するため暖かく感じるのです。
このような現象を熱輻射と呼びます。
輻射は温度を持った物体から電磁波(赤外線や光など)が放出され、空間を伝わって別の物体にエネルギー(熱など)を移動させる現象を指します。
そして、ソーラースペクトルは6000度の熱輻射でおおよそ説明がつきます。
熱輻射の計算
熱輻射のスペクトルを表す式は下式で表せます。
$$
I(\lambda,T)=\frac{2hc^2}{\lambda^5}\frac{1}{e^{\frac{hc}{\lambda k_BT}}-1}
$$
$k_B$はボルツマン定数、$c$は光速、$h$はプランク定数です。
各温度でのスペクトルをプロットしてみます。

色を付けた範囲が可視光域です。
温度が低くなると長波長側、高くなると短波長側にシフトすることが分かります。
ソーラースペクトルの欠損
実測のソーラースペクトルを見てみると、計算結果と比べて特定領域が抜けていたりします。
これは太陽から地球に光が届くまでに、大気などで吸収されるためです。
また太陽自身の大気、特に光球付近に存在する原子やイオンが特定の波長の光を吸収することで、多数の吸収線が現れます。これが有名なフラウンホーファー線です。
さらに、太陽から地球まで光が届く間には、地球の大気による吸収や散乱も加わります。
つまり、我々が実際に観測する太陽光のスペクトルは、太陽内部 → 太陽大気 → 地球大気 → 観測といういくつもの過程を経た結果なのです。
水の窓
水が通す波長域のことを生物学などでは”水の窓”と呼びます。
広範囲で見ると、本当に可視光しか通さないように見えます。
大気中に水蒸気として水が含まれますし、眼球の中にも水が含まれているため水に吸収される波長は、光を検出する網膜まで光が届かず見えなくなります。
大気の電磁波吸収
近年、半導体分野でEUV(極端紫外線、Extreme ultraviolet)が注目を集めています。
EUVは波長13.5nmの電磁波であり、X線と光の境界にいます。EUVは大気に吸収されるため、真空中で扱う必要があります。
一般に10nmから180nmの光は大気中で吸収されるため真空紫外線(VUV,Vacuum Ultraviolet)と呼ばれます。
つまり人の目で光が見えるには、水だけでなく大気($O_2$、$N_2$など)にも吸収されないことが必要です。
太陽光に一番多く含まれる緑色が強く吸収されずに地球に届くのは凄いことのように感じます。
もし水か大気が可視光を吸収していたら、生物はどう進化していただろう?と想像してしまいます。
そういうSFがありそうです。
まとめ
人の目の感度、ソーラースペクトル、熱輻射、水の窓、大気による吸収について説明しました。
「なぜ空は青いのか」という定型文のような疑問に対しても、つっこんで考えていくとどんどんと話が広がっていきました。
私たちにとって「光が見える」ということは当たり前のように感じます。
しかし、それを可能にしているのは、太陽が放つ光、大気や水の光学的性質、そして生物の進化が作り出した複雑な組み合わせです。
そうやって考えてみると、いつも見ている青空が、少しだけ不思議なものに見えてきます。



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